工廠記録|第壱章 一航戦とは
一航戦とは何か
――航空主兵という思想が生まれた瞬間
「一航戦(第一航空戦隊)」とは、
単なる航空母艦の部隊名ではありません。
それは、日本海軍が
戦艦中心の時代から、航空戦力を主軸とする時代へと踏み出した決断、
すなわち “航空主兵”という思想そのものを体現した存在でした。
この章では、
一航戦がなぜ生まれ、
なぜ特別な意味を持ち、
なぜ今なお語り継がれるのかを記録します。
戦艦主兵という常識
20世紀前半まで、
海戦の主役は疑いなく戦艦でした。
巨砲を備え、
分厚い装甲で身を守り、
艦隊決戦によって勝敗を決する――
それが各国海軍に共通する常識でした。
航空機は存在していたものの、
その役割はあくまで補助的。
索敵や偵察、限定的な攻撃に留まっていました。
この「常識」を、
部隊編成のレベルで覆そうとしたのが一航戦です。
航空戦力を“主役”に据える発想
航空機は、
戦艦の砲よりも遠くへ届き、
立体的に行動し、
敵の予想を超える速度で戦場に到達します。
この特性に着目し、
「航空機こそが次代の主力になる」
と考えた思想が、航空主兵です。
重要なのは、
これを単なる理論ではなく
実際の部隊として形にした点にあります。
それが、第一航空戦隊でした。

画像出典:Wikipedia
撮影:日本海軍
空母赤城と艦上攻撃機(1935年頃)
赤城と加賀――二隻で完成する思想
一航戦は、
航空母艦 赤城 と 加賀 の二隻を中核として編成されました。
もともと異なる経緯で建造された艦でありながら、
一航戦では「二隻一体」の運用思想が徹底されます。
・ 大量の艦載機を集中運用する
・ 攻撃・制空・防御を航空で完結させる
・ 艦隊全体を航空戦力で包み込む
これは、
「強い艦を持つ」発想ではなく、
「航空戦力そのものを束ねて運用する」発想でした。
一航戦は、
艦の集合体ではなく、
ひとつの航空戦力ユニットだったのです。
なぜ“一航戦”は特別なのか
のちに、
第二航空戦隊、第五航空戦隊など
複数の航空戦隊が編成されていきます。
しかし、
一航戦が持つ意味は別格です。
・ 航空戦力を主力として初めて体系化
・ 空母集中運用という運用思想の原点
・ 機動部隊思想の出発点
つまり一航戦は、
後続すべての航空戦隊の「雛形」でした。
この“最初の完成形”であることが、
一航戦を特別な存在にしています。

画像出典:Wikipedia
撮影:日本海軍
空母赤城より発艦する第二次攻撃隊(1941年12月)
思想は、やがて艦隊を変えた
一航戦の思想は、
単独で完結するものではありませんでした。
航空戦力の集中運用は、
やがて複数の航空戦隊を束ねる
「機動部隊」へと発展していきます。
それは、
艦隊の在り方そのものを変える転換点でした。
この瞬間から、
海戦は「砲の時代」から
「空の時代」へと移行していきます。
一航戦とは、
その扉を最初に開いた存在だったのです。
なぜ、いま一航戦を記録するのか
一航戦は、
勝敗だけで語られる存在ではありません。
そこにあったのは、
時代の変化を読み取り、
常識を疑い、
新しい主力を選び取った“決断”でした。
工廠記録シリーズでは、
この決断を
単なる戦史ではなく
思想の転換点として記録します。
なぜなら、
思想を知ることで初めて、
艦や部隊、そして装備の意味が
立体的に見えてくるからです。
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次章では、
航空主兵という思想を支えた
「航空母艦」という存在そのものに焦点を当てます。
思想を支えた“器”とは、何だったのか。
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航空母艦とは何か
――戦艦の時代を終わらせた海の翼

